【大原洋人インタビュー】
FACE TO FACE WITH HIROTO OHHARA
USオープンから2年、大原洋人が今見る地平
<後編>

Portrait by Tasiuke Yokoyama
Text by Mitsuto Matsunaga

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WSL/Smith 年始のウィンターシーズンをオーストラリアで過ごし、綿密なパーソナルコーチングを受けたことで、オーストラリアンオープンで見事結果を残した。



(前編はこちら

迎えた2017年。年末までハワイに滞在していた洋人は、年始を地元の千葉で過ごしたあと、多くのサーファーがノースショアにアタックしている1月半ばから、オーストラリアに飛んだ。これには2つの理由があったと言う。ひとつには、スケジュールに余裕をもたせ、試合に集中できる環境を作ったうえで、グレードの高いオーストラリアの試合でポイントを獲得するため。毎年シーズン序盤の6000グレードの試合は、オーストラリアで2回行われる。ニューキャッスルとマンリーだ。例年であれば洋人も多くの選手同様、年明けにハワイの試合に出場してから、日本で過ごす間もなくすぐさまオーストラリアへと向かい、その2つの試合に出場していた。それゆえ試合に集中しきれない部分もあった。そこで今年は1000グレードのハワイの試合はあえて出場せず、オーストラリアに照準を絞った。もうひとつの理由は、オーストラリア滞在の期間を長くし、コーチング先進国のオーストラリアでパーソナルコーチングを受けるためだ。「CTに入るにはもっとうまくならなければいけない」と思っていた洋人の中で、そのための最良の方法はと考えた結果、ハワイに行かずオーストラリアに重点を置くことは、必然的に出てきた選択だった。

 洋人は手始めに、ニューキャッスルとマンリーの前にオーストラリアで行われる3つの1000グレードの試合に出場して試合感を作りながら、元CT選手のジェイ・トンプソン、続けて元CT選手ベン・ダンの父で30年以上のコーチングキャリアを持つマーティン・ダンの教えを受けた。
「今まで受けたことがないようなコーチングを経験して、いろいろ直さなきゃいけないところが見つかったていう感じですね。サーフィンの技術の部分もそうだし、試合前にすべきことや試合のやり方や組み立て方、いろんなことを教わりました。でも同時にコーチたちが言うのは、その教えが絶対ではなくて、自分がいいと思えばやればいいし、違うと思えばやらなければいいっていうアドバイスなんだっていうこと。それを取り入れるか取り入れないかは結局自分次第なんだと思います」

 

 洋人は特にマーティン・ダンに、1000グレードの試合3つのうち、2つを見てもらい、その後、4日間かけてフリーサーフィンを含めコーチングを受けた。ちなみにマーティン・ダンはオーストラリアのナショナルコーチを務めた経験を持ち、数々のCTサーファーもコーチングを受けにくる名コーチである。彼からどんなことを教わったのか。
「普通の人じゃ気づかないような、でも10000や6000グレードの試合で勝ちたいならこうした方がいいみたいな小さなことでしたね。例えばフォームのこととか、トリミングをしないほうがいいということとか。これ以上はあまり言えないんですけど、アドバイスされたことをコーチに見てもらいながら試していくと、できてる時とできていない時の比較をした場合、やっぱりできてる時のほうがサーフィンが良く見えてて、自分でも続けていったほうがいいなと思ったんです。言われるまでは気づかなかったようなことなんですけど、それからは常に練習でも試合でも意識しながらやりました。結果、それでポイントもすごくもらえてたから、コーチングを受けて良かったなと思いましたね」

 また、試合の組み立てという部分においては、波の選び方についてアドバイスをもらったという。
「それまでは試合中に波を見て、乗りたいと思ういい波に乗ってたっていう感じだったんですけど、試合前に陸でしっかり波を見て、自分がどの波に乗って試合を進めていくかっていうことを明確にしておいたほうがいいと教わりました。その波以外は乗るなとは言わないけど、それぐらいの気持ちで他のいらない波に乗らないようにしていったほうが、リズムもつかみやすいって言われて、なるべく手を出さないようにしましたね。でも教わったからって急にできるものじゃないし、6000の試合で1回でもそういう試合運びがうまくできればいいねっていう話しをしてました」



こちらは本誌には使用していない、横山泰介によるポートレートのアザーカット。世界のトップで戦う洋人でも、「まだこういう撮影には慣れてない(笑)」とのこと。時折照れ笑いを浮かべる表情が、彼がまだ20歳になったばかりの青年だということを思い起こさせる。


2016年からの明確な目標設定、フィジカルとメンタルのトレーニング、そしてポイントを獲得するためとコーチングを受けるために選んだ今回のオーストラリア長期滞在。ひとつめの6000グレードの試合であるニューキャッスルから徐々にすべてがうまくかみ合い始め、はっきりとした形になって現れたのが、冒頭のライディングを見せたマンリーでのオーストラリアンオープンだ。去年までの試合を見ていると、洋人はどちらかと言えば本数を多く乗ってその中のいい波で点数を出していく傾向があった。だがマンリーでは、ラウンドが進むごとに波に乗る本数が減り、それに伴って1本あたりの点数が上がっていくという試合運びが見られた。くだんの9.83ポイントのヒートに至っては、相手選手が9本の波に乗ったのに対し、洋人が乗ったのは2本のみ。もう1本であるバックアップスコアのライディングも7.50とエクセレントに近い。乗る波のほとんどが高得点に結びつくということだ。9.83ポイントのライディングについてさらに驚くべきことは、本人の中ではきわどいところに当てにいったという意識はなく、むしろ「もっと攻められた」という感覚を持っていると話したこと。そのポテンシャルは今、どれほど高くなっているというのか。そしてマンリーの試合から1週間後、帰国前最後に出場していたQS1000セントラルコーストプロ・アボカビーチの試合で、2年ぶりのQS優勝まで成し遂げ、オーストラリアンレッグを最高の形で締めくくった。

WSL/Smith 3月のセントラルコーストプロで、2015年USオープン以来の嬉しいQSイベントでの優勝。


洋人は、ポルトガルで4月に行われたQS3000サンタクルーズプロで3位、5月の一宮・千葉オープンで9位に入賞し、現在QSランキング3位。7月は、3日から開催されるQS10000バリートプロに出場予定だ。こちらは今年初の10000グレードの大会で、今後のQSランキングを大きく左右するイベント。洋人の活躍を期待したい。

(前編はこちら
※SURF MAGAZINE VOLUME.01より、加筆修正を加え転載。

おおはらひろと/1996年11月14日生まれ。千葉県在住。8歳よりサーフィンを始め、13歳でプロへと転向。2015年に出場したUSオープンで日本人として初優勝を成し遂げた。2017年6月現在QSランキング2位。


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