【大原洋人インタビュー】
FACE TO FACE WITH HIROTO OHHARA
USオープンから2年、大原洋人が今見る地平
<前編>

Portrait by Tasiuke Yokoyama
Text by Mitsuto Matsunaga

  • twitter
  • facebook

あのUSオープンの快挙後、世界の舞台でしばらくその名を耳にすることはなかった。
「その後」の2年間、洋人は何を思い、何を考え、過ごしてきたのだろう。
自分に足りないものは一体何か。どうすれば夢のステージにたどり着けるのか。
正解のない荒野を切り拓いてきたという強さが、その顔を以前より少し精悍にさせた。
2017年、オーストラリアンプロで得た確信とともに、洋人は着実に前進を続ける。



今年3月、マンリーで行われたQS6000オーストラリアンオープン・ラウンド5。十分なサイズがあったものの、風の影響からかいまいち波にまとまりがないコンディションの中、ブラジルのルエル・フィリーペとマッチアップした大原洋人は、頭オーバーのレフトの波にテイクオフした。少し速めのブレイク。すでにブレイクしはじめオーバーハングしたリップに、バックハンドで躊躇なく当てこみに行く。体勢を崩してもおかしくはないように見えた状況の中、ホワイトウォーターとともにボトムへと着地した洋人は、何事もなかったかのように深いボトムターンでフルドライブ、スープをくぐり抜けたあと、再びリップをきざみ、この波を最後のセクションまでコンプリートした。コールされたスコアは9.83。5人のジャッジのうち2人が10点、残りの3人も9.50以上というビッグライドだった。続くクォーターファイナルでも、8.00と8.77というエクセレントスコアでCTサーファーのナット・ヤングを下し、セミファイナルまで進出。決勝まであと一歩及ばなかったものの、3位という好成績を残した。

WSL/Smith オーストラリアンオープンで3位。この試合後QSランキングは4位へとジャンプアップ(6月現在は2位)。

2年前の2015年、日本人初のUSオープン優勝で一躍その名を世界に知らしめた大原洋人。
このままポイントを獲得していけば次の年はCTに、という予感すら感じさせたが、シーズンの後半はかんばしい結果を残すことができなかった。そんな洋人に対し、USオープンの後、気の緩みがあったのではないかという批判も一部ではあったようだ。
「毎試合集中してやってたんですけど、USオープンで優勝した後は……、少し気が抜けてたかもしれません(笑)。その年はQSの10000や6000を経験してみようという中での優勝だったから、正直驚きが大きかったというところもありましたね。ただ勝てなかった理由は、自分のサーフィンが足りてなかったから。ミスがあったから負けただけです」

プロスポーツ選手が自身の不振について問われうれしいはずはないだろうが、あっさりとそれを認めてしまうあたりに、彼の生来の素直さ、同時に2015年の快挙とその後の停滞をすでに自分の中で整理できていることが伺える。
続く2016年も洋人はQSを転戦するものの、結果はなかなか残せずにいた。試合での最高位は、自国開催であったQS1000日向プロでのファイナル進出で4位。前年優勝したUSオープンではラウンド4で敗退、17位という成績に終わっていた。年間のランキングも2015年の34位に比べると、78位と大きく後退。順位だけで判断すれば前シーズン後半の流れを、そのまま引きずっているように思われたが、自分の中での意識は大きく変わっていたと話す。そこには同世代のカノア五十嵐やレオナルド・フィオラバンティの存在も影響していた。

WSL / KENNETH MORRIS  2015年USオープンでの優勝によって、世界中にその名を知らしめた。

「2015年は今思えばはっきりと目標を意識してなかったんだと思うし、その年までトレーニングもあまり取り入れてなかったんです。でもそれがダメだったなと思って、2016年から新しくトレーナーについてもらって。それに去年はカノアがCTに入ったし、今年からはレオナルドも入りましたよね。レオナルドも多分カノアを見て、絶対自分もCTに入ると思って去年1年戦ったと思うんですけど、そういう強い気持ちがないと簡単に行ける場所じゃないんだろうと思いました。自分も一緒のタイミングでCTに入れたらいいなと漠然と思ってたけど、ひとつ年下のカノアが先に行って、少しおいていかれてるっていう気持ちもありました」

 環境は違えど、それまで同じQSで切磋琢磨していたカノアが、CTという舞台に昇っていったという事実は、洋人に少なからず刺激を与えた。悔しさと ともにモチベーションを得た洋人は、次なる高みに登るためハードワークを自らに課す。自分の身体のどこが弱いのか、ワイプアウトを無くすためにどう鍛えればいいのか、トレーナーとひとつずつ探しながらそれをクリアしていく。またメンタル面についても多くを学んだ。気持ちの持ち方や考え方、自分に対する言葉の使い方で、精神状態は大きく変わる。それは頭で分かっていても、実践無くしてなかなか身には付かないものだ。

「去年試合結果はいい成績を残せなかったけど、1年間フィジカルとメンタルをすごくトレーニングできたし、身体も段々良くなってきてるなっていう実感があったから、ただ結果が出てないだけだって思っていました。余計なことを考えるより、とにかく自分のパフォーマンスに集中するっていうのも学んだことのひとつですね」
(後編はこちら

※SURF MAGAZINE VOLUME.01より、加筆修正を加え転載。

おおはらひろと/1996年11月14日生まれ。千葉県在住。8歳よりサーフィンを始め、13歳でプロへと転向。2015年に出場したUSオープンで日本人として初優勝を成し遂げた。2017年6月現在QSランキング2位。


share

  • twitter
  • facebook