【TAI’S EYE】KEVIN LLOYD ANCELL
ケビン・ロイド・アンセル
ベニスビーチのサーフ&スケートカルチャーの
光と影に洗礼を受けたアーティスト
Photo by Tai
Text by Sae Yamane
語り手/横山泰介(よこやま・たいすけ)。日本のサーフィン黎明期より活躍するサーファーフォトグラファー。その人の素を描き出すポートレート作品を中心に発表を続ける。@taiseye
Kevin Lloyd Ancell『”Nisi”×Tai” “ancell’s』
ケビン・ロイド・アンセルと初めて出会ったのは、映画『BUNKER77』の監督兼プロデューサーとなったプロサーファー、枡田琢治の紹介だった。ケビンがいったいどのくらいすごい奴かは、いまさら僕が説明する必要もないことかもしれない。
サーフアートという括りを越えたアートの世界で活躍している人物なんだけれど、ただ、ここで取り上げる理由としては、デビル西岡の想い出がそこに重なるから。サンタモニカやベニスビーチでサーフィンやスケートボードをやって育ったケビンにとって、西岡はドッグタウンの親分、ジェイ・アダムスも認めたレジェンドスケーター。もちろんケビンと西岡も友達だった。来日の際にアートのインスタレーションをやることになったとき、僕の撮った西岡の写真にケビンがアートを描くというコラボレーション(上写真)が決まった。西岡とのつながりのない僕の写真だったら、そうはいかなかったかもしれない。
本誌では使用されなかったケビンのアザーカット。澄んだ瞳が印象的だ。
ケビンは、この絵にも描いている大きなクロス、DOGTOWNのデザインで有名になったけれど、アーティストとしての作風はレンブラントやカラァヴァッジオなど、写実主義に基づいた初期のフランドル派からも影響を受けていて、バチカンの天井画のような絵を描くことでも評価されている。カリフォルニア・コスタメサにあるRVCAの本社の壁画はまさにその例。一方で、今回のような作風でケリー・スレーターのボードにペイントした作品が何本もある。
2015年の来日の際に、上の作品を含む2点の作品のコラボレーションをしたのだけれど、その一部始終を写真に納めていたら、「Tai、どうだ?全部埋めてもいいのか?」と確認するから、当たり前のように「もちろん、思う通りにやってくれ」と言った。
写真には魂が宿ると思うことがたびたびあるけれど、確かにあの瞬間、ケビンが西岡の写真に自分のアートを重ねていくうちに、西岡の魂がそこに納められているような気がしたんだ。
西岡は40年近く前に、ある日突然目の前に現れて、気がついたら同じ家に住んでいた。家族もいなくて、ひとりで生きて来たような奴だったから、どんな世界にもふらりと入っていけたのかもしれない。当時のスケーターの世界はそんな奴ばっかり、怖そうな世界だけど、実は寂しい奴が多くて、だから繫がったときに家族と同様に互いへの思いがあるのかもしれない。淡々と絵の具を重ねてケビンが西岡の写真を塗りこめたとき、さまよいがちな西岡の魂がやっと居場所をみつけたんじゃないかなと、どこかほっとした。同じものをもっている同志しか、わかりあえない何かなんだろう。強面だけれど、ジェイもケビンも西岡も繊細さで繫がっている。そこには優しさがあるんだね。
(※SURF MAGAZINE VOLUME.02より再構成し転載。)